坂の街

 上り坂と下り坂の数が違う街の話を聞いた、ある仕組み。

 滅多に現れない下り坂をその人が通る時だけは絶対に出てきて、でもそこを通る人はそんなにいないからほとんどその人しか通らない坂になっている。

 街には昔掘られた地下道があって今では入れないけれど、まだある。入り口は塞がれているけれど中は通路が残っているところと地下水の影響で天井が落ちてもう通れないところとがある。この街の雨期はとにかく湿気がひどくて、その雨期に実際使っていた地下道の様子を湿気と人いきれとにおいと、と考えるとありえない。

 坂の仕組みを担う構造はその地下道に沿って作られていて、それは地下道よりももっと地表側にあって、地下道より最近に作られた。人の向きを察知してそれによって坂を下りか上りかに変える。その人の意思とは関係なく、通ってきた道順や今どこの坂に人が通っているかなどでそれは判断される。坂はけして親切ではないのでその人が疲れていても積極的に下り坂になるとかそういうことはしない。

 坂を決定するための条件を収集する装置は街中にあるはずだけれど、それらは皆、擬態していてわたしたちにはわからない。それを見分けることのできると言う老人が「あの猫だ」とか「てっぺんから数えて四番目の枝についている三つの実のうち一番熟しているやつだ」とか呟きながら街を徘徊している。彼の言うことは合っているのかわからないが彼について行くと坂はいつも下りにしかならない。