23回文フリ東京 エ52 既刊 『ユートピアだより』 見本 

新刊の見本はアップしましたが

(こちら↓)

 

toubako.hatenablog.com

 

今まで出した本の試し読みをどこにもあげていなかったので、ここで紹介します。

 

文フリのwebカタログにも情報を載せています。

「ユートピアだより」無響サイレン@第二十三回文学フリマ東京 - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 

書影はこんな感じです。

 

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紹介文▼

 

  • ずっと戦いが続いている、どこかでの話です。
    市民は地下にシェルターを与えられ生活しています。
    ある日、規制線の張られた町の中でリンは見かけない格好をし
    道路に横たわった少女を見つけます。
    少女は何日も寝たまま、ようやく目を覚ました彼女は口をきけないようで……



    どうしようもなさや踏み出すことの恐さは
    その人それぞれの持ち物であって
    他人にはどうしようもできないこともある

    わたしと似た人はこれまでにも居たし
    これからも現れるだろう
    それを希望として
    ここで、これから、暮らしていく

 

 

ここから本編の見本になります。

 

 

 部隊はもう隣町まで来ているようで、たくさんのものや人が動いている空気の震えが微かに感じられた。もう何が原因か分からないくらい昔から続いている戦争だった。たくさんの国や組織が入り交じってそれぞれに矢印が向いていた。大元の原因にその時々で見つけてきた理由をくっつけて、その中から場合によって一番もっともらしく聞こえる理由を選んで人々は納得したり、そうさせられたりしていた。私も、幾度となく聞いた。何と何が、どうして、何処で、そしてこれからはどうなっていくのか。それももう忘れてしまった、元々、きちんと聞く気などなかった。この場所は、ただ戦場として使われることが決まっていた。小さな町だから抵抗する手だてはなかった。私と関係のない組織がここで戦ってまたどこで戦ったりするから、終点は全部がなくなったときだと思っていた。今残っているものはこれから壊されていって、何もなくなった綺麗な世界になると思っていた。何も考えなくて済む都合のいい想像だった。

 人がみな、逃げるかシェルターに入るかした町はひっそりとして、年の始めの朝早くの感じに似ていた。全ての店にシャッターが降り、人陰は見あたらなかった。地上に出たのは一週間ぶりで前よりかなり寒くなっていて、大通りに続く道は規制線が張られていた。私はそれをくぐって、大通りに抜けようとした。私とユクの居るシェルターは市街地から離れていて、一旦地上に出ないと配給の受けられる会館まで辿り着けなかった。多くのシェルターは元からある排水設備を利用した地下廊で繋がっていて、そのまま会館まで抜けられる。会館に行くのも目的のひとつであったけれど、シェルターはひどく退屈で昼夜も分からなくなる。しかしよく考えると退屈というのは少し違っているのかもしれなくて、元々書庫として使われていたシェルターは、もちろん本がたくさんあるしユクも居る。ただそれを読む気にならなかった。まだ始まってもいないのにいつ終わるか知れず、緩くだるさが付きまとった。何もする気が起きないことが多くなり、そういった時は地下廊をひたすら歩いたり、地上に出たりするのがよかった。だから会館に行くのは気晴らしになった。冬が近づき、地上の冷えた空気は時々であれば心地良いものであった。危ないことが無関係に見える、生き物の気配のしない現実味のない町をただ歩いていた。これから少し経って色々なものが壊れたこの町で、私がまた日々を過ごそうと、そのために行動している様子を想像できなかった。自分が生きていく為なのにそれをやっかいなことと思ってしまうのは、生きている自覚が足りていないからかもしれない。この町が危険でなくなってもずっとシェルターに籠もっていたかった。元通りになった町では、私は戦闘に巻き込まれて死んだことになっていればいいと思った。

 その日は三時半頃に私たちのシェルターから一番近い出口で地上に出、そこから歩いて会館に向かおうとした。会館の配給部門が閉まるのは五時なのでぎりぎりになりそうだった。トラムが線路の上で止まっていたのがちらと見えて気になり、そちらに向かった。トラムの乗客の乗る昇降口は開かず、運転席のドアは開いた。キーは刺さったままになっており、まわすと電源がついた。この線は会館に続いているはずだった。誰もいないし良いかと思って、レバーを手前にゆっくり引くとそろりと動き出した。レバーを引いた分だけ速度は上がったが、そうはせず、人が走ったら追い越せそうな位で走らせた。レバーは引いたところで止まっていたので、運転席を離れ客席に座り、景色を眺めた。人を大勢乗せて運ぶ為の乗り物が、何もしていないのに勝手に動くのは楽しかった。会館まではずっと大通り沿いを線路が走っている。小さな町の古い中途半端な繁華街は、シャッターが降りると余計みすぼらしく見えた。シャッターの剥げかけた落書きはいつからあるのだろうか。車内の暖房は付けないでおいた。空気が澄んだ寒さは好きだった。季節の中で冬が一番好きだ。寒い中で町を歩いた思い出に、よい思い出が多いせいかもしれなかった。人影はひとつも見あたらなかった。しばらく走らせると、トラムの前の方で音がし、車体が揺れた。何かを引いたかと慌てて、運転席に駆け寄ったけれどトラムを止めることができたのは後輪もその何かに乗り上がってからであった。

 電源を切り、運転席の横から外に出た。小石か小枝かの上を通ったのだろうと予想していた。足下を後ろまで見渡したが何も見あたらなかった。反対側かと屈んで車体と地面の隙間を見た。隙間は狭く、色もかたちも分からないものが落ちているのが見えた。思っていたより大きそうだった。ぞっとした。正面をまわり運転席の反対の側面に出ると、思わず、あっ と声が出た。引いたか、と背筋が寒くなった。その場で立ち止まり、観察した。そこから見た限り外傷はなかった。それはこちらを背に向け寝ていて、身体は線路と直交するように横たえられていた。頭は車体の後ろ側に向いていて顔は見えなかった。不自然に頭の部分が他より高くなっているのは、配給の箱を枕にしているようであった。肩のあたりまである髪は箱に沿って緩やかに流れている。

 風が吹いて、足下にちらちらと何かが舞っているのに気が付いた。屈んで拾うと小さな長方形をした薄い紙で、ぐずぐずしたとらえどころのない文字のようなものが連なっていたけれどとても文字には見えなかった。あちこちに散らばっていて、拾っているうちに若干であるが動揺と恐怖とが収まりつつあった。紙の出所はどうやらそれの――その少女の傍らにある鞄であるらしい。鞄の肩掛けの紐はレールの上に乗っており、引いたのはこれであるらしかった。

「どうしようか、」

皮でできているらしい鞄は固く重かった。彼女の服装といい、この辺りでは見かけない。何処か遠くから来たのではないかと想像した。戦闘地帯から逃げて来たのかもしれない、でもここも直にそうなる。すぐ横を大きな乗り物が通っても気付かなかったのは、疲れているからだろうか。

 

 

 

続きは会場で…

 

見本誌コーナーでもブースでも見本冊子を置いておきますのでどうぞお気軽にお手に取ってご覧下さい。